感染症対策は何故難しいのか ? ③
更新日:2022年2月14日
抗生物質の枯渇
薬剤耐性菌による感染症治療には一般に抗生物質が使用される。
日本の場合欧米とは異なり医療制度が皆保険制度が実施されているため、病院において感染症に罹患した時は治療費は病院の負担ではなく、政府が補填している。因みに欧米の多くは病院の責任で感染した場合は病院の費用で賄われている。MRSA病院感染及び病院感染対策によって生ずる医療費の増加に付いて日本環境感染誌 Vol.28 no.5,2013 より発表されている。
最近米国を初め日本においても感染症は病院に止まるものではなくなってきたと言う事から医療関連感染という表現に代わった。MRSA等の感染率の調査が日本国内では個人情報保護の観点から患者情報が得られにくくなったため過去の情報をベースに試算を実施したとの記載があった。問題となる耐性菌は多くあるが、日本の場合約八割がMRSAである。
抗生物質枯渇の大きな理由は製薬メーカーが新しく抗生物質を開発しても直ぐに薬剤耐性が
出来ると研究の回収が艱難であるため進んで研究をしない事が大きな原因とされている。
◎5施設の集計 (2008年度の調査結果をベースとした場合)
・MRSA感染症による平均在院日数増加の試算
・81.12日 →600床規模の5施設でMRSAの症例が平均して167例あった。そのMRSAとそ
の他の感染症者を合計した人の平均入院日数は81.12日間である。
・15.05日→非感染事例すべての症例は56,869例あり、その平均入院日数は15,05日間であ
る。(MRSAには感染していない人の入院日数)
・66.07日→一人のMRSA症例の平均余分入院日数は66.07日である。
・¥58,744円→5施設の病院のMRSAの症例の場合1日一人の治療費の平均は¥58,744円で
ある。
・¥3,881,216.08円→治療期間(66.07日間)が延びると ¥58,744×66.07日=¥3,881,216.08円
の治療費がかかる。
・480床→600床の病院の稼働率を80%と仮定すると稼働率が0.8を掛けると480床が稼働して
いる事になる。
・71.01人→1年間365日間中全感染症で一人余分に入院する日数は15.05日間であるので
365÷15.05=24.25回転 となる。(1ベッドの稼働回転数)24.25回転×稼働率80%=19.40回転/
1ベッド1年間(19.40 人)19.40回×600床=11,641人/年間このうち0.61%がMRSAであるので
11,641×0.0061=71.01人となる。
・0.61%→更に22施設/年間での感染症例は255,642例であるのでこの中でのMRSA症例の合
計は1,561例であ り、MRSAの感染率は1561/255,642=0.0061(0.61%)となる。
・¥275,610,182.7円→従って600床の病院1施設で年間MRSA症例に余分にかかる治療費合
計¥3,881,216.08×600床×0.8(病床稼働率80%と仮定)×(365÷15.05)×0.0061(MRSA感染
率)=¥275,610,182.7円となる。
◎22施設の集計の場合
・255,642症例 →22施設の1年間の合計入院者数
・11,620.09 症例→1施設の年間入院者合計数255,643症例/22施設/年間 ÷22施設
=11,620.09
・¥275,389,922.8円→¥3,881,216.08円(MRSAの一人の平均治療費)×1,561例(22施設の
MRSA症例調査の合計)÷22施設=¥275,389,922.8円(600床の病院1施設で年間MRSA症例
に余分にかかる治療費合計)
◎全病院感染(全病院院内感染)によって増加する治療費
(病院感染率は概略5%と想定される)
約¥275,000,000円×(0.05÷0.0061)=約¥2,254,000,000円
種々の院内感染に関して600床の病院1施設で年間病院感染症例に余分にかかる治療費合
計は¥2,254,000,000円となる。
日本環境感染誌 Vol.28 no.5,2013
東京医療保険大学大学院教授 小林 寛伊氏他執筆資料
【参考 :米国の場合】
・世界でICUに在室している患者の内、少なくとも1/4は院内感染している。
・米国で院内感染患者は250万人/年、死亡者は9万人/年(3.6%)である。一日当たり247人/日
・米国の病院の入院患者の5~10%は、毎年院内感染をしている。(10~20名に一人)
・院内感染は米国死亡原因の6番目に位置している。
・専門知識の高い看護師の下では、院内肺炎の感染は低い。
・人工呼吸器関連肺炎の祖死亡率は約10~40%である。推定のcostは1件当たり$30,000~
40,000(¥300~400万円)。ある文献では経済損失は1件当たり$12,780(¥120万円)
・院内肺炎による祖死亡率は15%~18%である。発生率は5~15/入院1,000日
・平均在院日数の増加は最大4~14日、病院の持ち出しcostは$20億(¥2,000億)
・手指消毒は感染症拡大防止の最も重要なファクターである。正しく行う事で、コロニー形
成単位を90%減少できる。また、抗生物質の抵抗性を33%減少できる。

米国に於ける抗生物質の開発状況